凡庸なるがままに。


by michelle_s
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陰陽師12巻

 「陰陽師」の12巻を買ってきた。原作:夢枕獏、とクレジットされてはいるけれど、8巻ぐらいから後は原作と別の宇宙に旅立ってしまった、漫画の岡野玲子ワールドになっているのはずっと買っている読者なら皆ご存知のことと思う。
 私の場合は最初に漫画(岡野版)の1、2巻を読んでから小説(夢枕版)を読んだ。それからは漫画と小説の間の往来がとても楽しかった。
 初期の岡野版は「鬼の上前をはねる」安倍晴明が涼やかに活躍する姿と、天からの恩寵を受けていながらまるっきり天然なワトソン役・源博雅と晴明とのコンビぶりを描きながらも、百鬼夜行や生成などをひんやりと、しかし血のにおいがするような表現で描き、「平安の雅で陰惨な闇」を、言葉を具現化する以上の表現で見せてくれていた。私は結構なハマりっぷりだったのだ。
 11巻、12巻と読んだが、まず初期の頃のような、事件が起こって晴明と博雅が一枚かみ、陰陽師は常人にはわからぬ理でもって事態を収束させる…てなはっきりしたストーリーは消え失せている。内裏が焼失し、安倍晴明は藤原と源、どちらにつくのか、そして都や国の命運は…?というような流れはあるにはあるのだが、本当に注意深く読んで行かないと取り残される…というか本筋ではない感じがする。ネームや絵の中に晴明が何者か、何の叡智を手にしているのかに対する隠喩と象徴はたくさんこめられているけど、「正解」はもちろんはっきりと示されることはない。岡野先生は、この作品を漫画ではなくて宝のありかを示す賢者の書物にしたかったのだろうか…
 残念ながら読み手のひとりである私は凡愚なので、ある程度のオカルト的お約束みたいなものはまだ読み取れるとしても、あえて明らかにせずに作者が作品中に埋め込んだ謎を、作者の意図通りに掘り出せる自信はないし、それをする気もない。最初からそういう作品だとわかっていて手に取ったなら話は別だが、「平安の雅で陰惨な闇」を調律し解決する陰陽師の「漫画」を期待して読んでいたので、ストーリーも読者も、作者が考えた宇宙の真理の宝探しを強いられるような話になってしまったのが残念だ。そんな高尚なもんじゃなくっていいんです。

 なにしろ、12巻ではいきなりエジプトのイメージが頻繁に繰り返されるのだ。というか、前世はエジプト人になっちゃってます、晴明。誰これ?なんでエジプト?と、今まで平安時代の日本の話を読んでいた人間は面食らう。しかし、そんな風に思ってはいけない。作者が公式サイトなどでかたる言葉をヒントに、テクストを読み解く人間だけが「選ばれし読者」になれるのだから。
 …でも、その作品の中で、作品の受け手に一応の答えを「漫画で」提示するのが漫画なんではないのかなあ、とボンクラ読者の私は思う。ストーリーにオチをつける、というのも重要な答えになると思うんだけど、全ては隠喩のかたちで提示されているので、これはもう作者側には漫画の態に収める気はないのではないか、とも思える。
 百歩譲って注釈書や解説書が必要な漫画もアリかもしれないが、この漫画は最初はそうではなかったはずだ。そして私が好きだったのはその漫画だった。
 それでも根気よくずっと読んできたから、なんとなく物語が最終巻に向けて動き始めているのはわかるのだが、ここで収束するのは当初あった「安倍晴明の物語」ではなく、「岡野玲子と安倍晴明の物語」が収束していくのだと思う。
 私としては最初の頃の晴明と博雅が平安の世を行きつつも不可思議な事象に出会う、そういう話を続けつつ、大きなストーリーも完結させてくれれば、最終巻を読み終わったら感動したと思う。だが最近は晴明、鬼や怨霊レベルのものは相手にしなくなり、この世の神秘や大いなる叡智ばかりと戯れる。作品中の難解な晴明ポエムを読むたびに、完全に安倍晴明とシンクロしてしまった岡野先生の姿を見る思いがして「木乃伊とりが木乃伊に…」という感想が第一に浮かんできてしまう。ウンベルト・エーコの「フーコーの振り子」もオカルト本(テンプル騎士団が…カタリ派が…生命の叡智が…とか)編集に関わって木乃伊取りが失敗、という話だったので、晴明ポエムを「私にはわかるわ!」と下手に思っちゃう人がいるかもしれないと心配。余計なお世話だが。
 それでも古本屋にも売らず買い続けてきた訳なので、ファンではあるわけだ。最終巻の13巻、ポエムは少なめにして、あくまでも漫画として晴明の物語にちゃんと幕を引いてほしいと思っている。

漫画「陰陽師」岡野玲子

小説「陰陽師」
夢枕獏
(アフィリエイトじゃないよ) 
岡野玲子先生公式サイト http://www.najanaja.co.jp/omj/omj_frame.html
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by michelle_s | 2005-09-15 00:44 | まんが